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宇宙線研究所の共同利用報告会で、ホットスポット(クラスター)、雷イベント(バースト)などを含む TAの最新結果を発表しました。

公開日:2013.12.22

TA グループの平成25年度共同利用研究成果発表会での報告です(宇宙線研・佐川宏行) <file 3.7MB pdf>

テレスコープアレイ実験は、2008年から5年間のデータを使って以下のような結果を得ました。

  1. 超高エネルギー宇宙線のスペクトルを測定して、10の19.8乗電子ボルト以上では急に宇宙線の数が減ることを確認しました(有意度は5.7σ)。 これは、宇宙線が宇宙背景放射と衝突してエネルギーを失うという、グライセン・ザツェピン・クズミン(GZK)の予想とよく一致しています【佐川報告9ページ】。 GZK の予想曲線は、ローレンツ因子が 100,000,000,000 と大きくなるような極高エネルギーでも、相対論が正しく成りたっているとして計算されています【報告21ページ】。
  2. このスペクトルを測定したエネルギー領域では、宇宙線が陽子であると考えて矛盾はありません。 ただし、10の19.4乗電子ボルトをこえる領域では、観測できた宇宙線のイベントが少なくて、宇宙線は鉄のような重い原子核であるという仮説も否定することはできません【13-15ページ】。
  3. 電子ビームを空中に射出して、望遠鏡の感度を較正する ELS (Electron Light Source) が完成し、大気蛍光発生の効率が実際のTA望遠鏡を使って測定できるようになりました。最新の値は、実験室で測定した FLASH,AIRFLY などの結果とよく一致しています。 ELSは宇宙線の電波観測の試験などにも使われています【11-12,29ページ】。
  4. 10の19.76乗電子ボルト(=57EeV, 57 Exa-electron-Volt)をこえると、宇宙線の到来方向に偏りができることは、これまでにも兆候がありましたが、新しいデータ解析で得た72イベントをプロットすると、半径20度以内にイベントが集中する場所(ホットスポット)が一か所ありました【16-20ページ】。 一様等方な分布から偶然に(まちがって)、このようなホットスポットができるのは、仮にTAが同じ5年の観測を10,000回くり返したとしても、2回ほどしか起こらないような低い確率です(有意度3.6σ)。
  5. 現在のTA実験では、57EeV を超えるイベントはきわめて稀で、1月に1イベント程度しか観測できません。 GZKカットオフをこえたエネルギーで見え始めたホットスポットの研究を進めるために、TAの観測領域を約4倍に拡張するTA×4計画を提案しています【23,26ページ】。
  6. 地表検出器によるイベントのトリガー頻度を調べたところ、1000分の1秒以内に3つ以上のトリガーがある例(イベントバースト)が10例ありました。時間的に変化なく一様にやってくる宇宙線では、まったく説明できません。しかも、ほとんどのバーストは6月から9月に起こっています。電波観測による落雷のデータベースとくらべたところ、落雷の位置とは数kmで、落雷の時間とは1000分の1秒以内で一致する例が多数みつかりました【報告30-35ページ】。
  7. 10の19乗電子ボルトまでの観測を精密化するTALE計画の建設が進み、一部を使って観測が始まりました。完成まであと一息です【24-26ページ】。  電波やチェレンコフ光を使った開発研究も進めています【26-29ページ】。

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