公開日:2018.12.25
テレスコープアレイによるホットスポットの発見 宇宙線は電荷を持った粒子なので、地球に到達するまでに宇宙空間の磁場で運動方向が曲げられてしまいます。このため、宇宙線の到来方向から宇宙線の起源天体を知ることは困難だとされてきました。しかし、10の20乗電子ボルトに近い極高エネルギー宇宙線は、宇宙の磁場の中をほぼ直進するので、一番エネルギーの高い粒子だけを観測することで宇宙線の起源を探ることができます。宇宙線天文学が可能になるのです。
テレスコープアレイ実験で、極高エネルギーの宇宙線だけを選び出してその到来方向を調べた結果を図に示します。赤が宇宙線が平均よりも多くやってくる方向。青が少ない方向です。図の下半分は南半球の空なので、テレスコープアレイでは観測できない領域です。図に示すように特定の方向に宇宙線到来数の集中が観測されました。星座のおおぐま座の方向で、宇宙線のホットスポットと呼ばれて注目を集めています。ホットスポットの方向の近くには近傍の銀河がたくさん集まる超銀河面があります。極高エネルギー宇宙線は、近傍の活動的な銀河からやってくるのでしょうか?
ホットスポットは非常に興味深い発見ですが、科学の世界ではまだ宇宙線集中の確実な証拠とは言えません。本当は集中がなくても、一万回に3回ほどは偶然このような偽の集中が見える可能性があるのです。証拠を確実にするために、観測数を増やすことが必要です。テレスコープアレイは北半球で最大の宇宙線観測実験なので、そのまま観測を続けてもあと10年待たなければいけません。
TAx4計画 ホットスポットの証拠をより早く確実に検証するために、テレスコープアレイの面積を拡張する TAx4 (ティーエー タイムス フォー)計画が進んでいます。下図の青色部分が、現在テレスコープアレイ実験が地表アレイを配置する領域で、約700平方キロメートルに相当します。今回、図の赤色で示すように南北に新たに検出器を設置して、合計の観測面積を4倍にします。これで宇宙線の観測頻度を増やし、2年半の観測でテレスコープアレイ10年分のデータを取得できます。拡張するのは地表アレイだけではありません。空気シャワーを三次元的に観測する蛍光望遠鏡も増設し、地表アレイと同時に極高エネルギー宇宙線を観測します。
TAx4のための検出器の製作が進んでいます。最初の蛍光望遠鏡は2018年2月に設置され、宇宙線の検出に成功しています(下の望遠鏡写真)。地表検出器の製作も進み、2019年1月にはヘリコプターによる設置を開始します。下の写真は、デルタ市宇宙線センターで設置をまつ地表検出器です。設置作業の様子は "What's New"でも随時お伝えします。